視床下部過誤腫によるてんかんに対する治療

てんかんに対する治療は、ふつうはお薬(抗てんかん発作薬)を使います。

抗てんかん発作薬を、日常的に、規則正しく服薬することで、てんかん発作が生じることを防ぎます。

 

しかし、視床下部過誤腫による発作、特に笑い発作は、薬による治療が非常に効きにくいことがよく知られています。そのため、適切な診断や治療がなされないと、やみくもにたくさんの薬を使う羽目になってしまうことも少なくありません。

 

したがって、視床下部過誤腫によるてんかんを治療するためには、適切な外科治療が必要となることがほとんどです。

薬物療法の意義

視床下部過誤腫によるてんかんに対して、抗てんかん発作薬を使用する意味があるかどうか、という問題があります。

 

特に笑い発作は、ほとんど薬が効きません。

ものすごくたくさん発作がある場合(1日に何十回もある、など)には、発作の数を減らす効果は多少ありますが、発作が全くなくなることは稀です。

 

しかし、笑い発作以外の発作(全身けいれんや、複雑部分発作など)では、薬による治療が効くことがあります。笑い発作以外の発作もある場合には、笑い発作よりも患者さんに与える影響が強いかもしれないので、早めに薬の治療を始めることを考えても良いと思います。

 

外科的治療の意義

視床下部過誤腫による発作に対しては、外科的治療が有効です。

 

笑い発作は、視床下部過誤腫の中からてんかん性の異常放電が生じ、これが視床下部に伝わり、視床を介して脳の各部位へ広がることで生じると言われています(笑い発作のメカニズム参照)。

このことは古くから知られており、視床下部過誤腫を外科的に治療する事が、発作消失に最も効果的であると言うことは、かなり以前から認識されていました。

 

これまでの外科治療

視床下部過誤腫から視床下部へてんかんの電気活動が伝わるので、これを遮断する(断ち切る)ような手術が有効となります。

 

しかし視床下部過誤腫は、脳のとても深い位置にあり、周囲にはたくさんの重要な構造物があります。

しかも、視床下部過誤腫は神経組織の出来損ないのようなかたまりであり、くっついている視床下部との見分けが難しいと言われています。

なので、合併症なく安全に、かつ有効に遮断するような治療が難しいと言われてきました。

 

従来の脳外科的治療法の治療成績は、以下のように報告されていました。

 

しかも、これらの治療法は、視床下部過誤腫の形や場所、大きさによって、適応できるかどうか異なってくるため、一定の治療成績をおさめるのが難しいとされてきました。

 

特に、大きな視床下部過誤腫に対しては、いろんな治療法の組み合わせが必要と言われており、それに伴い、それぞれの治療法の合併症が重なってしまうことがあり、リスクが高いとされていました。

定位温熱凝固術

そこで新たな治療法として、「定位温熱凝固術」という治療法が、視床下部過誤腫の治療のために応用されるようになりました。

この治療法は、定位的脳手術の手法と、高周波による熱凝固治療を組み合わせた治療法です。

 

新たな、といっても、実は古くからいろんな脳の病気に対して使用されてきた手法です。

特に、パーキンソン病のような不随意運動に対する治療や、過去には様々なてんかんに対する治療にも用いられていたことがありました。

(最近、てんかんに対する定位温熱凝固術は、日本でも再び注目されるようになってきています。)

 

西新潟中央病院では、1997年から視床下部過誤腫に対してこの治療法をはじめて以降、一貫してこの治療法を行ってきました。

このことにより、世界的にもまれに見る、単一治療法での数多くの治療経験を持つことになりました。(論文参照

 

定位温熱凝固術の詳しい話は、別のページで行います。