ここでは、西新潟中央病院における治療成績について述べます。
最近のデータ(1997年〜2020年、210名)では、
最初の手術で、
笑い発作の、71.0%
笑い発作以外の発作の、76.0%
の患者さんたちで、発作が完全に消失しています。
最初の手術で発作が止まらなかった患者さんたちに対して、再手術を行うことがあります。
これまでの西新潟中央病院の経験では、3割弱の人が再手術を受けています。
(2020年までのデータでは、25.2%の再手術率でした。)
再手術に関する詳しい情報は、別のページで説明しています。
再手術を行った人たちも含めて、最終的には以下のような発作抑制効果があります。
(2020年12月までの時点でのデータ)
笑い発作の消失は、89.5%
笑い発作以外の発作の消失は、78.8%
全部の発作では、75.7% の消失率
となっていました。
このことから、再手術により笑い発作の消失率は向上しますが、笑い発作以外の発作は再手術によってもあまり消失率は向上しない、ということがわかります。
(これ、かなり重要な結果です)
手術により発作が治まってしまえば、抗てんかん発作薬は不要になることが多いのですが、
これは視床下部過誤腫の手術に限らず、てんかんの外科治療の後の抗てんかん発作薬については、発作が治まったことを確認した後に、少しずつ減らしていくことが原則です。
視床下部過誤腫の患者さんの多くは、手術前に何らかの抗てんかん発作薬を服薬していると思います。
特に、診断が遅れたり、笑い発作以外の発作を併発している人では、複数の抗てんかん発作薬を服薬していることもあります。
視床下部過誤腫においても、手術後に発作が治まっているのを確認できれば、抗てんかん発作薬を減らすことが可能です。
特に、手術前の発作が笑い発作だけで、術後に発作が治まっており、複数の抗てんかん発作薬を服薬している場合には、早めに減薬することも可能なことがあります(通常6ヶ月〜1年後くらいから)。
一方で、手術前に笑い発作以外の発作があった場合には、少し減薬を慎重に行うこともあります。
2017年までのデータですが、
全体の59.5%の患者さんで、抗てんかん発作薬を減量することができ、47%の患者さんでは、完全に中止することができていました。
薬の減量中であった患者さんも含まれていますので、今ではもっと多くの患者さんで抗てんかん発作薬を中止できていると思います。
視床下部過誤腫症候群では、てんかん発作以外に、知的発達障害や行動異常を併発することがある事について別のページで紹介しました。
これらの症状も、手術により改善することがあります。
特に行動異常については、多くの例で改善することがあり、
乱暴な行動や集中力のなさが改善した、と言うことがよく聞かれます。
手術直後から、行動面の改善が見られる患者さんもいます。
あまり科学的な厳密な調査ではないのですが、
改善したかどうかということを、患者さんの家族に聞いて調べた調査(2017年までのデータ)では、
行動異常の改善した率は、84.2%となっていました。
特に、発作が消失した例で改善した例が多かった傾向にありました。
知的発達障害についても、改善することがあります。
ただし、これは行動異常ほど、高い効果があるわけではありません。
改善の度合いは、手術前の状態によります。
境界線レベルや軽度の発達の遅れくらいであれば、正常レベルまで改善することがありますが、
中等度や重度の発達の遅れだと、少し改善か、もしくは現状維持、ということもあります。
特に重度な遅れがあると、なかなか改善が難しい傾向にあります。
では、手術をせずにそのまま放置していたらどうなるか...
さすがに、そのような実験的な研究はできないので、確かなことは言えないのですが、
長期間経過したような患者さんを見ると、
こどもの頃に、それもできるだけ早く治療をした方が、発達遅延がどんどん進んでいくのを防ぐ効果はあるのではないかと思っています。
それでは、もともと正常な知的能力を持っている人はどうなるのでしょうか?
実は、もともと正常なレベルの知的機能が、さらに向上する、という患者さんも中にはいます。
あまり変わらない人もいるので、そこにどのような違いがあるのか、実はまだよくわかっていません。
今後の研究課題だと思っています。