ここでは、視床下部過誤腫に対する定位温熱凝固術を行う際に、どのような考え方で手術計画を立てているかを説明します。
どちらかというと、今後、定位温熱凝固術を行いたいと考えている医師向けです。
(無料で公開してよいのかしら、と思いつつ...)
患者さん側でも、こんな感じで手術の計画を立てているだ、と実感していただければと思います。
定位温熱凝固術のページでも説明しているように、視床下部過誤腫が視床下部にくっついている面をきれいに切り離す必要があります。
その付着面を確かめるためには、MRIの冠状断という断面が必要です。
だいたいの場合において、その境界面(下の図の赤い点線)は、色合いの違いとして認識できます。
上の図は、FLAIR(フレア画像)という撮影法ですが、正常な脳組織と、それより白っぽく見える視床下部過誤腫の違いがわかると思います。
しかし、くっきりと色が違うと言うことはそれほど多くなく、多くの場合、境界部ではすこしぼやけて見えることもあります。その場合、正常組織とのくびれの位置を認識して、境界部を推定することになります。
上の図の症例は、両側の視床下部に付着しており、特に左側(画面上は右に見えます)に広く付着し、右側にも少し付着しているということがわかります。
サージプランを用いて、境界部ギリギリの所に熱凝固の部位を設定します(下の図の左)。
これも他のページで説明しているように、一つのターゲットは直径5mmの球形となっています。この症例だと、1カ所のターゲットでは、付着部を完全にカバーできていないので、複数の刺入経路を組み合わせて。付着部が完全に離断されるように、ターゲットを組み合わせて設定していきます(下の図の右)。
しかし、これだと左の付着部しかカバーできていないことになります。
そこで、反対側の付着部の処理をどうするか、ということになりますが、反対側から手術を行おうとすると(この場合右側から)、左のみならず右側の視床下部にも影響が出てしまう可能性があります。
実際、過去の古い症例では、両側から手術をし、両側の視床下部に影響が出たと考えられる内分泌障害を後遺症として生じてしまい、その後もホルモン補充療法が必要となった症例がありました。
こういった経験から、できるだけ片側から手術をしようという方針にしています。
どうやって片側から反対側の付着部を処理するかというと、下の図(左)のように、一度左側の付着部をターゲットとして刺入した凝固プローブを、そのまま深く差し込んでいき、右側の付着部に到達するところにもう1カ所のターゲットを設定する、という方法をとっています。
これにより、無駄な刺入経路を作らなくても良くなり、手術時間の短縮、脳へのダメージの軽減を図っています。
左側と同様に、できるだけ右側の付着部も完全に離断できるように、左右のバランスを考えながら、刺入経路、ターゲットを設定していきます(下の図の右)。
治療計画を立てる上で、凝固ターゲットの設定とともに重要なこととして、刺入経路の設定があります。
注意すべき点として、脳溝という脳のしわとしわの間にある溝(下図左の黄色矢印)や、シルビウス裂という脳の深い切れ込み(下図左の赤矢印)、側脳室という脳脊髄液のたまった空間(下図右のオレンジ矢印)を通らないような経路を設定する、ということです。
これらの場所には、比較的大きな血管が通っており、これを傷つけると、出血を起こすリスクがあります。
また、刺入する脳の表面(図における経路の一番外側の緑丸)でも、できるだけ一番盛り上がったところからプローブを差し込めるような位置に設定することも重要です。
少し落ち込んだところだと、小さな血管を傷つけたり、刺入時に脳が押し込まれて血管が引き抜けたりして、これまた出血を起こしてしまうリスクがあります。
まず治療のターゲットを設定し、次にこれらの構造物に気をつけながら刺入経路を設定する、という手順になります。
最終的には、複数の刺入経路と凝固ターゲットの組み合わせにより、両側の付着部を完全に離断することを目標にしています。
いろんな断面から、治療計画の確認をします。
最終的な治療計画(ターゲット; 下図左と刺入経路; 下図中)と、術後(手術から1年後,下図右)の状態です。
術後、凝固した部位が画像上黒く抜けて見えます。左右の付着部でおおむね良好な凝固離断ができていると思います。この症例では、手術後2年以上発作のない状態が続いています。