視床下部過誤腫によるてんかんを診断するために必要な検査、そして、そのポイントをまとめました。
視床下部過誤腫は、専門家でも見すごしてしまうことがあります。
しかし、ちょっとしたコツやポイントを押さえるだけで、見逃しが少なくなると思います。
まず、「視床下部過誤腫である」と診断するための基本的なことは、
・笑い発作があることを正しく認識する。
・MRIで視床下部過誤腫の特徴的な所見を確認する。
ということにつきます。
笑い発作については、他のページで詳しく説明していますので、そちらをご参照ください。
ここでは、視床下部過誤腫があること(存在していること)、そして視床下部過誤腫が今ある症状にどのくらい関わっているか、を調べる検査について、述べていきます。
視床下部過誤腫を診断するのに、必ず必要な検査です。
ある程度の大きさがある視床下部過誤腫では、それほど見逃されることはありませんが、最大径が10mm以下であるような小さな視床下部過誤腫も珍しくありません。
通常の外来で行われるMRIでは、軸位断といわれる、頭を上下から見た輪切り(通常下から)見た断面で撮影されることが多く、また一つ一つのスライスの厚さも5mm程度で行われることが多いと思います。
しかし、この撮影の仕方では、10mm以下の視床下部過誤腫が見逃される可能性が、非常に高くなります。
よほど疑ってMRIを見ないと見逃されやすく、過去には、有名なてんかん専門施設であっても見逃されていることがありました。
このような見逃しを防ぐためには、
・薄いスライス厚(3mm以下)で撮影する。
・冠状断といわれる,頭を正面から見た断面で撮影する。
といった工夫が必要です。
特に、視床下部過誤腫の外科治療のためには、視床下部にどのような形でくっついているかを正確に判断する必要があり、このためにも冠状断が重要です。
てんかんの診断において、脳波は大事な診断ツールの一つです。
てんかん発作中の特徴的な脳波異常が捉えられれば、一番診断価値が高いのですが、外来などで行う短時間の脳波では、そのときにたまたま発作が起きる、ということはめったにありません。
したがって、発作の時の脳波を調べたい場合は、入院してもらって、数日間、長時間ビデオ脳波モニタリングという検査を行う必要があります。これは、脳波の電極をずっとつけたまま、ビデオカメラのある専用の部屋に入ってもらって、発作の時の映像と脳波を同時に測定する、という検査法です。
しかし、この検査は入院が必要だし、たいへんなので、通常は短時間の脳波で、発作ではないとき(発作間欠期といいます)の、突発的な一瞬の異常波を調べて、それによっててんかんであるかどうかの目安(あくまでも目安です)にしています。
しかし、視床下部過誤腫は、脳の奥深くにあるため、視床下部過誤腫内の電気活動が、頭皮まで届かないことはしばしばあり、脳波をとっても異常がないということはしばしばあります。
我々の経験では、半数近くが異常なし、という結果でした。
なので、"脳波で異常がないからといって、てんかんではない、ということが言えない"ということになります。
視床下部過誤腫の笑い発作の診断には、脳波ではなく、その症状をよく調べる、ということが大事であると言うことになります。
視床下部過誤腫では、笑い発作以外の発作も併せ持つことがしばしばあります。このような場合には、視床下部以外の大脳皮質にもてんかん性の電気活動(てんかん性放電)が広がっていることが多いので、このような場合には脳波異常を伴うことがあります。
このような場合には、視床下部過誤腫であっても、脳波を測定する意義があると言えます。
また、笑い発作はあるのに、視床下部過誤腫がMRIで見つからない、という場合もあります。
このような場合には、視床下部過誤腫以外のてんかん、もしくはそのほかの病態を考えなければなりません。
このようなそのほかの病態を知る必要があるときには、脳波が有効である事もあります。
てんかんの発作に関連して、てんかん発作の発生に関わる脳の部位の脳血流が増えることがあります。
SPECTでは、脳に反応する放射性同位元素を、発作が始まった直後に注入して、脳血流が増えた部位を検出します。
発作直後に注入することにより、発作が始まる場所により近く迫ることができます。
発作が起きてからしばらくして注入すると、発作活動が広がってしまった後の場所に反応が出てしまい、発作の発生源がわかりにくくなることがあります。
視床下部過誤腫では、笑い発作に関連して、視床下部過誤腫、特に視床下部とくっついているところに、脳血流増加を生じており、この場所に反応が得られます。
特に、両側の視床下部にくっついているタイプのものでは、その笑い発作がどちらの視床下部に伝わっているか調べる必要があるときがあります。
一方で、小さな過誤腫では、反応が得られにくいこともしばしばあります。
視床下部過誤腫では、我々の経験によると、約半数に知的発達障害、および行動異常を伴っていました。
神経心理検査では、IQを調べることで、知的発達障害の程度を知ることができます。
これにより視床下部過誤腫の診断を行うわけではありませんが、どのくらいの程度なのか知ることは、その患者さんに適切な療育や、就労を行ううえでは、参考になります。
また、障害認定などで必要になることがあります。
IQを調べることが難しい低年齢児では、発達検査を行い、DQ(発達指数)を算出することになります。
これらの程度を調べることは、特に手術を控えている患者さん、そして手術後の患者さんでは、手術によりどのくらい変化したかを知るために重要なことになります。