「笑い発作」とは、視床下部過誤腫によるてんかんにおける、最も特徴的なてんかん発作の症状です。
早いものでは、生後すぐに異常な笑いに気づかれることがあります。
西新潟中央病院のデータによると、発症年齢の中央値は、1歳となっており、半数以上が1歳までには発症している事になります。
しかし、初めは笑い発作が異常であると気づかれず、「なんだかよく笑う子だね〜」と思われていたり、「なんだかへんだけど...」と疑いつつもそのまま放置されていたり、などのこともしばしばあり、診断が遅れるということもよく経験します。
そして、その他の発作が出ることで病院を受診し、MRIで視床下部過誤腫がわかって、それから笑い発作だったことに気づかされる、というパターンもしばしば経験します。
笑い方はさまざまで、
ゲラゲラ大笑いしていたり、
ヒヒヒと引きつるように笑ったり、
ふふん,ふふんと鼻を鳴らすような声を出していたり、
声を出さずにニヤ〜っとしているだけのものであったりと、
いろんなパターンがあります。
しかし患者さん個人個人では、笑い方の程度に強弱はあるものの、一定のパターンであることがほとんどで、モノトーンで単調な笑いを繰り返す、という笑いかたをするといったことが多いです。
視床下部過誤腫による笑い発作の特徴は、
1.突発性
2.強制的
3.単調なリズムで,抑揚のない笑い
4.感情を伴わない
5.笑い顔に左右差がある
などが挙げられます。
てんかん発作なので、突然、笑いが始まります。
何でこんな時に笑うの?というタイミングで笑い出します。
笑う前に、笑いそうになる感じを自覚することがあるので、発作が始まる直前に、急に表情が変わったり、雰囲気が変わったりすることが、周りから見てわかることが時々あります。
そして、てんかん発作の特徴として、発作が終わると元に戻ります。
変な笑いが終わった後、けろっと普段の様子にもどります。
(なかには,笑い発作に引き続いて,他の発作を生じたりする人もいます)
発作の持続時間は、数秒程度の短いものから、長いもので1分くらい続くことがあります。
しかし、長くても、2〜3分以上笑い続けることはまれです。
ただし、短い笑いを繰り返して、長く続くということは、まれにあります。
これは、「笑い発作」の重積状態といえるものです。
視床下部過誤腫による笑い発作は、リズムや笑いの抑揚が単調です。
一定のリズムで、途切れ途切れに同じような抑揚の笑いを繰り返すことが特徴です。
視床下部過誤腫による笑い発作は、強制的です。
つまり、無理矢理笑わされる、という感じです。
多くの場合、自分で笑いをコントロールすることができず、おさまるのを待つしかありません。
年齢が高くなり、物心がついて周りの目を気にするようになると、他人に気づかれないようにと、発作を隠そうとする行動(こらえるような笑い、押し殺すような笑い)になったりすることもあります。
視床下部過誤腫による笑い発作には、楽しい感情を伴わないことが特徴です。
普通、笑う時には楽しかったり、面白かったりして笑いますが、
笑い発作の時には、無理矢理笑わされるうえに、楽しい感情がありません。
そのため、患者さんにとっては、とても不快に感じたりすることがあります。
小さいお子さんだと、不快さのあまり、発作中に泣き出して、へんな泣き笑いのような感じになることもあります。
もっと小さい、赤ちゃんくらいの時には、発作を嫌がって、変な笑いをしながら、ジタバタしている、みたいな症状を出すことがあります。このジタバタを、他のてんかん発作と間違われていることもあります。
視床下部過誤腫による笑い発作では、笑い方に左右差(左右の違い)が出ることがあります。
笑い方の左右差は、ほうれい線のあたりに強く出ます。
視床下部過誤腫は、通常右か左か、どちらかの視床下部にくっついていることが多いですが、
くっついている側の反対側の顔の方が強く笑うという特徴があります。
つまり...
左にくっついた視床下部過誤腫 → 右側の顔が強く笑う
といったかんじ。
両方の視床下部にくっついている視床下部過誤腫もありますが、
通常は、どちらか片方に強くくっついています。
なので、多くの場合、どちらか決まった側の片方に強い笑いとなりますが、
たまに、両方の2つのパターンの笑いを持つ人もいます。
特に、新生児や乳児などで、典型的な笑いにならずに、笑い発作が気づかれないことがあります。
例えば、急に呼吸が荒くなる、顔を真っ赤にして怒ったようになる、しゃっくりを繰り返しているように見える、などの症状として現れる事があります。
このような場合、
・呼吸のパターンが、断続的な単調なリズムになっている
・急に始まって、しばらくするとおさまる
・このような症状が、だいたい一定のパターンで生じる
・顔の表情に左右差がある
などの特徴があれば、てんかん発作(笑い発作)を疑い、MRIを確認する必要があるかもしれません。
視床下部過誤腫によるてんかん発作に,泣き発作というものがあるとされています.
しかし,私の経験上,純粋な泣き発作は少ないと感じており,
多くの場合,笑いながら泣いている「泣き笑い」という感じのものがほとんどと,個人的には感じています.
このときは,まず笑い発作から始まることが多く,途中から「泣き」の要素が入ってきます.
泣きの中に笑いが混じっているので,泣き声が途切れ途切れになっています.
特に,小さい子に多く,笑い発作による不快感(楽しくないのに無理矢理笑わされる感じ)によって,発作中に泣いてしまうのではないかと推測しています.
笑い発作の最中は、患者の意識の状態は、保たれている場合と、そうでない場合があります。
意識や反応性が保たれている時には、(笑いは止められないけど)呼びかけにうなずいて答えたり、それなりに意味のある行動がとれたり、などします。小さい子だと、両親に助けを求めるような行動に出たり等もします。
意識や反応性が保たれない場合には、発作中に視線が合わなくなったり、うろうろ変な行動を伴っていたり、呼びかけに応じられなくなったりします。
笑い発作は、ほとんどが視床下部過誤腫によって生じると言って良いくらいですが、時々それ以外の原因で笑い発作が起きることもあります。
前頭葉てんかんや側頭葉てんかん、まれには頭頂葉てんかんなどで、笑い発作を生じることがあると報告されています。
また、てんかん性の笑い発作ではありませんが、自閉症などの発達障害で、異常な笑いを生じることがあります。
それぞれの特徴をまとめると、以下のようになります。
1) 前頭葉てんかん
前頭葉てんかんでは、基本的には感情を伴わない発作となります。
(ただし、前頭葉を電気刺激した研究では、感情を伴う笑いを生じたという報告もありますので、もしかしたら感情を伴う笑い発作を生じうるのかもしれません)
けいれんや、激しい動きを伴う自動症などの前頭葉てんかんに特徴的な発作を伴う可能性が高くなります。
2) 側頭葉てんかん
側頭葉てんかんでは、感情に関係する扁桃体というところが発作に関与することがあり、
このため、視床下部過誤腫の笑い発作では生じない、楽しい感情を伴う事があります。
また、発作中にぼーっとしてしまうような、意識の状態が変化するような症状を伴う可能性があります。
3) 自閉症などでの異常な笑い
自閉症において、感情のコントロールがうまくできず、場にそぐわない異様な笑いを生じることがあります。
単調ではなく、複雑で多様な笑いであったり、視床下部過誤腫による笑い発作とは少し様相が異なります。
4) アンジェルマン症候群や筋萎縮性側索硬化症(ALS)
これらは、てんかん性ではありませんが、強制笑い、病的笑いといった、自分でコントロールできない笑いを生じることがあると言われています。その笑い方は、視床下部過誤腫の笑い方と事なり、単調な笑いではなく、普通の笑いに近い抑揚のあるもののようです。