視床下部過誤腫は、笑い発作以外のてんかん発作も生じることがあります。
その他のてんかんでもみられるような、いろんなてんかん発作が起こりえます。
笑い発作の方が先に発症していることが多いのですが、当初は笑い発作に気づかれず、
以下に挙げるような、他の発作が始まってから、初めててんかんと診断されることもしばしばあります。
そして、ふりかえってみると、そういえば、以前からヘンな笑い方をしていた、ということもしばしばです。
ぼーっとするような症状が多いですが、ときには側頭葉てんかんに似たような自動症(もぞもぞ無関係な動きをする、口をもぐもぐする、など)を生じることもあります。
ぼーっとする発作には、全般起始発作である「欠神発作」というものもありますが、視床下部過誤腫の患者さんの脳波で、欠神発作に特徴的な脳波をみたことがありません。
病態からしても、焦点起始の発作(脳の部分的なところから始まるてんかん発作)と考えています。
しかし、焦点起始が疑われるとはいえ、特定の焦点(発作の始まる場所)を発見できることはほとんどありません。
脳波でも、なんとなくもやっとした異常の拡がりがあることがほとんどです。
いわゆる「全身けいれん」というものです。
現在のてんかん発作型の分類では、焦点起始発作から全身けいれんに移行する、「焦点起始両側強直間代発作」というものと、全般起始発作である「全般強直間代発作」というものがあります。
つまり、脳のある一部から始まったてんかん発作が脳全体に広がって全身けいれんを生じるタイプと、最初から脳全体にてんかん発作が広がって生じるタイプに分けられます。
視床下部過誤腫では、そのどちらもが生じる可能性があります。
笑い発作が生じた後に全身けいれんが起きる場合は、焦点起始両側強直間代発作といえるでしょう。
笑い発作がはっきりせずに、全身けいれんだけが生じる場合は、全般起始強直間代発作である可能生があります。
手足を硬く突っ張るような発作です。
以前は全般起始発作だけに用いられていた用語ですが、現在では焦点起始発作の中にも強直発作があります。
見分け方としては、左右の手足が同じように強直していれば全般性、片方の手足だけが強直していれば焦点起始、ということになります。
焦点起始の強直発作では、意識が保たれている場合もありますが、全般性の場合には意識がない事がほとんどです。
視床下部過誤腫では、そのどちらも生じる可能性があります。
全般起始の強直発作の場合、より重度な印象があります。
実際、手術後に残りやすい発作は、全般起始強直発作であるというデータもあります。
本来「ウェスト症候群」という、乳児に生じる難治性てんかんでみられる特徴的な発作です。
首、肩まわりのごく短時間の筋肉の強直が生じて、びくんとするような発作です。
点頭てんかん、といわれていたように、頭をかくんと垂れるような動きになったり、
肩や上肢をびくんと挙げるような動きをするので、イスラム教のお祈りの仕草に似て、サラーム発作(礼拝発作)と表現されることもあります。
視床下部過誤腫で、てんかん性スパズムを生じることは多くありませんが、
当初、患者さんの家族やかかりつけ医では認識できていなかったものが、検査で確認するとてんかん性スパズムと思われる発作が確認されることもあります。
発症当初に、ウェスト症候群と間違われていることもあります。
私は、視床下部過誤腫によるてんかん性スパズムは、焦点起始発作に分類されるものがほとんどだと思っていますが、
もしかしたら、重度なてんかん発作を持つ人には、全般起始や起始不明なてんかん性スパズムが混じっているかもしれません。
症例数が少なく、なかなか実態がつかめませんが、一人一人のデータを慎重に解析していく必要があると思っています。
(実際には、発症当初の患者を診ることがほとんどなく、かかりつけ医でどのような判断が下されているか、にかかっており、なかなか実態把握が難しいのが現状です)
私の経験上は、いわゆる全般性とおもわれるような、ヒプスアリスミアと呼ばれるウェスト症候群に特徴的な重度な脳波異常を持つ患者さんを診たことはありません。
しかし、紹介前にACTH療法という、ウェスト症候群でのてんかん性スパズムに対する特殊な治療を受けた患者さんを経験したことはあります。
身体が一瞬ビクッとする発作です。
本来は、全般起始発作に分類されていた発作ですが、現在の分類では焦点起始のミオクロニー発作があるとされています。
視床下部過誤腫でも、非常に数は少ないですが、ミオクロニー発作と思われる発作が生じることがあります。
しかし現時点では私は、これが焦点起始性のものなのか、全般起始性のものなのか、結論は出せていません。
おそらく、ほとんどものもは全般起始性ではないかと思っています。
これは、ミオクロニー発作のほとんどが重度の患者さんに多いこと、手術後に発作が残りやすいこと、などの経験上の印象が理由です。
身体の力が一瞬にして抜けてしまい、倒れてしまうような発作です。
これも視床下部過誤腫では少ない発作です。
これまでの経験でも、脱力発作があったという患者さんは、ほんの少しだけいらっしゃいましたが、実際に検査などで確認できたことがなく、焦点起始性なのか、全般起始性なのか、私もよくわからないところがあります。
おそらく全般性なのではないかと思っていますが...